AIを使う前に、社内のデータとネットワークはどこまで整えるべきか
ファイルサーバーが散らかったままAIを入れても回答は当たりません。着手順と、回線・Wi-Fiで先に潰しておく前提条件を整理します。
AIの回答が当たらない原因は、たいていAIの外側にある
「社内文書を読ませたのに、的外れな回答しか返ってこない」というご相談をよくいただきます。モデルの性能を疑う前に確認したいのが、読ませている側の状態です。同じ規程の新旧が3世代並んでいるファイルサーバーを指定すれば、AIはどれが最新か判断できません。人間が「これは古いやつ」と暗黙に読み飛ばしていた情報を、機械は等価に扱ってしまいます。
つまりこれまで人の記憶で吸収していた曖昧さが、AI導入で一気に表面化するという構図です。裏を返せば、整理の効果が最も出やすいのもここです。
全部を整える必要はない。着手順を決める
「まずデータ整備から」と全社のファイルサーバーに手を付けると、たいてい終わりません。AIに読ませる範囲だけを先に切り出すのが現実的です。
- 対象を1業務分に絞る——問い合わせ対応なら、製品マニュアルとFAQだけ
- 最新版を1箇所に集める——「_最新」「_v3」「(修正)」が混在するなら、1本に決めて他は別フォルダへ退避
- 形式を揃える——スキャンしただけのPDFは文字として読めないことがあります。テキストが選択できるか確認を
- 権限を確認する——全社が読める場所に人事情報が置かれていないか。AI経由で参照できてしまいます
目安:1業務分なら文書50〜200点程度に収まることがほとんどです。この規模なら数日〜2週間で整理できます。全社1万点を対象にすると年単位になり、その間に成果が出ないため社内の熱が冷めます。
先に潰しておきたいネットワーク側の前提
データが整っていても、回線とWi-Fiが細いままだと体感は改善しません。特に次の3つは、AI利用が増えると顕在化します。
1. 会議室と執務エリアのWi-Fi
音声・画面共有を伴うAI会議ツールを使い始めると、1人あたりの通信量が増えます。アクセスポイントが数年前の規格のままだと、人が集まる会議室から先に詰まります。台数を足す前に、電波調査で「どこが弱いのか」を測ってから判断した方が、結果的に安く済みます。
2. 上り(アップロード)の帯域
ファイルをAIに読ませる用途は上り方向の通信です。一般的な回線は下り重視の設計になっているため、下りは速いのに資料の読み込みだけ遅い、という現象が起きます。契約プランの上り速度を一度確認してください。
3. 拠点間・在宅からのアクセス経路
VPN経由で本社のファイルサーバーを参照している場合、その経路がボトルネックになります。AI利用を機に、対象データだけクラウドストレージへ寄せる判断も選択肢です。
やらなくていいこと
逆に、初期段階では手を付けなくてよいものもあります。
- 全社データの棚卸し——対象業務が広がってから順次で問題ありません
- 自社専用モデルの構築——既存サービスで成果が出ない状態で作っても、原因はデータ側のままです
- 高性能なサーバーの調達——クラウド型で始める限り、社内に重い機材は要りません
進め方のまとめ
| 時期 | やること | 確認するもの |
|---|---|---|
| 1ヶ月目 | 対象業務を1つ決め、文書を1箇所に集約 | 最新版がどれか判別できる状態か |
| 1〜2ヶ月目 | 会議室のWi-Fiと回線の上り速度を実測 | 体感の遅さが再現するか |
| 2〜3ヶ月目 | 少人数で試用し、回答精度を記録 | 外れたときの原因が文書側か質問側か |
| 3ヶ月目以降 | 対象業務を隣の業務へ広げる | 同じ手順が再現できるか |
データ整理とネットワークの見直しは、担当者が本業と兼務のまま進めると止まりがちな工程です。電波調査、アクセスポイントの設置、クラウドストレージへの移行と権限設計は、実作業ごと外部に出せます。